【医療ニュースPickUp】2015年3月20日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
”癌細胞だけ“を光らせる新たな蛍光スプレーが開発される
2015年3月13日、科学技術振興機構(以下、JST)は、東京大学 大学院医学系研究科・薬学系研究科の浦野泰照教授らの研究グループが、“癌細胞だけ”に反応する新たな蛍光試薬を開発したと公表した。
この試薬はスプレー式で、開腹手術や腹腔鏡手術、内視鏡検査の時に、癌と疑われる部分に噴霧するだけで、数分後には“癌細胞のある部分だけ”を光らせて、検出することができるという。
この研究結果は、2015年3月13日(英国時間)付けで、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されている。
この研究は、2011年頃まで遡る。
2011年に浦野教授らは、特定のタンパク質分解酵素活性が、癌細胞で多く検出されていることに着目し、世界初の「迅速がん部位可視化スプレー蛍光試薬」を開発していた。現在でもこの試薬については、機能の検証が行われている。
しかし、この時点で開発された試薬では、発見できない癌も多く存在していることが分かってきた。そこで今回、より幅広い癌腫に反応する、新たな蛍光試薬の開発に臨んでいた。
今回の研究では新たに、「癌細胞中の糖鎖分解酵素活性が高い」ことに着目して開発が進められた。その結果、癌細胞中に含まれる糖鎖分解酵素(β-ガラクトシダーゼ)と反応すると構造が変化し、強く光を放つ物質へと変化するよう、設計された。
この試薬を、複数の種類の卵巣癌細胞を腹腔内に転移させたモデルマウスに投与すると、全ての癌細胞の可視化に成功したという。2011年に開発された、タンパク質分解酵素活性を標的とする試薬では、可視化できなかったものを含め、全てのがん細胞を可視化することに成功した。
今回の研究が「卵巣癌」を標的とした背景には、卵巣癌患者の病期と生存率があるようだ。卵巣癌患者は目立った自覚症状が少なく、その半数以上は治療開始の時点ですでに腹腔内への転移があるケースが多く、完治することは難しいとされている。5年生存率は全病期でみるとおよそ60%。
開腹手術や腹腔鏡手術で、1㎜以下の微小な転移巣まで切除すればこの数値も上がってくる可能性があるが、これを肉眼で正確に見分けるのは非常に難しいといわれており、「術中における癌部位の可視化」技術の開発が望まれていたという。
今回開発された試薬を噴霧すれば、微小な癌転移巣を正確に見極めることができ、見逃しや取り残しを防ぐことが可能となる。1㎜以下の転移巣までしっかり切除できれば、5年生存率は大きく変わってくると期待されている。
今後は、本試薬の臨床新鮮検体注における機能の検証、および安全性試験が行われる予定である。
参考資料
JST がん細胞を光らせて検出する新たなスプレー蛍光試薬を開発
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150313/
nature communications
Sensitive ?β-galactosidase-targeting fluorescence probe for visualizing small peritoneal metastatic tumours in vivo
http://www.nature.com/ncomms/2015/150313/ncomms7463/full/ncomms7463.html
がん情報サービス 卵巣がん(らんそうがん)
http://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment_option.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
このプレスリリースが載っている、JSTのページには、実際に開発された蛍光試薬により癌が検出されている写真が載っています。既存の試薬との対比がされていますが、これは恐らく、マウスの腹腔の写真なのでしょう。
手術室に勤務していたころ、実際に腹膜への転移(腹膜播種)をおこしている卵巣癌患者さんの腹腔内を見たことがありますが、本当にお腹の中に米粒をバラまいたように、転々と小さな癌細胞がありました。癌細胞に特有な糖分解酵素に反応、これを全て検出できるのだとすれば、肉眼では分からない転移巣も見つかるのだと思いますので、かなり画期的な手法なのかもしれません。
とはいえ、仮にすべて検出できたとしても、それを1つ1つ切除する医師の方もかなり困難な手技になるのだと思います。やはりベストなのは、そうなる前に見つかる、ということなのかなと思います。
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